(解説)「あの人は、夜空を見上げるのが好きでした・・・」、彼女は浄化槽の上に座り、月を見上げていた。
宇宙飛行士の旦那は、昔から夜空を見上げるのが好きだったらしい。その趣味がこうじて宇宙飛行士になった。
しかしNASAのとある計画に参加し、月面に降り立った彼を、エンジントラブルを起こしたロケットは、無常にも勝手に発進。彼は帰らぬ人になった。
「でもね」、未亡人は言った、「それでもこんな夜は、月を見てしまうの」。たぶん、彼女は彼の生還を信じているのだろう。そんな彼女を見ていると、僕は思わず月を嫉妬してしまう。そこだけに、彼女の場所があるのだから――。