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グルメ漫画と「めっちゃキャン」のこと

グルメ漫画

漫画の展開についてあれこれいうのは無粋なのかもしれませんが、少年誌などでみかけるグルメ漫画の展開って、ある種テンプレートみたいなところがあって面白いですよね。

グルメ漫画のパターンとして、次のような展開を良く見かけるような気がします。

(1)悪者登場
[悪事例]店をのっとる。近所にライバル店を作る。インチキ食材で客をだます。

(2)困る
[困る例]大体は主人公の同級生や知人、縁戚の店が困る。あとは町内の店やチェーン店にかなわない小さな店。
悪者に勝てない理由は「味」「コスト(向こうはなぜか大量資本で安く良い食材で提供している)」「派手さ(困っている店は堅実だけどありきたりなものを出している)」

(3)挑戦
[挑戦例]当然料理で対決。勝利条件は悪者の店を撤退。結果として客を取り戻すなど。
主人公の敗北条件は「自分たちの一員になれ」「お前の店ももらう」「一生下働きをさせてやる」「困っている店の奥さん(娘さん)をもらう」などなど、往々にして料理対決でどうこうしようというレベルのものではないことが多い。

(4)偵察
[偵察例]読者に対して、いかにライバルの料理が、ちょっとやそっとでは乗り越えられないものかを示すためにこの項目が入る。あるいは同じジャンルの他店に行き、その料理の難しさを知る。一種のグルメ漫画的レトリック。

(5)試行錯誤
[試行錯誤例]作る料理に対して、主人公の経験によって展開が分かれる。
→今まで作ったことのある料理の場合
一度ありきたりなものを作り困っている店の店主に食べさせるが「駄目だ、これだと○○さんとこの味には遠く及ばない……」と、助けてもらっている身でありながら、読者に「まだ一工夫足りない」ことを印象付けるためにわざわざ嫌なことを言う。
→今まで作ったことがない料理の場合
なぜか天才的なカンとテクニックで克服。
困っている店の店主の台詞例「ま、まさか。串うち3年、焼き一生といわれるうなぎを、たったの1週間で……」。
なお、こういった天才的テクニックのシーンが描かれると、対句的に「でも、いくら○○ちゃんの腕がよくても、絶対に克服できないものがあるんだ……、それは時間だ(→タレの熟成)」といった、腕だけでは解決できそうにない問題も登場するので油断ならない。

(6)勝負当日
[当日例]審査員は対決に関わり深い人が登場。たまに、あからさまに悪者サイドの審査員も登場するが、これは「ひいき目さえ押しのけるほど主人公の料理がうまかった」ことをあらわすためのドラマツルギーなので安心してよい。

(7)判定
[判定例]99%、先に試食を終えたほうが負ける(例外→鉄鍋ジャン!・他)。
80%の確立で主人公が後手で勝つ。また残り20%も「オレはこの料理を20年続けてきただけや。たった1週間でこれだけのものを作ったんや。あんさんの料理、すごかったで」となぜか悪者が理解をしめし、何事もなかったかのように翌週も連載は続く。

ちなみに主人公が勝つ場合、大概の場合1工夫で決まる(例:隠し味のパイナップル)。
しかもおおむね、『そのジャンルのプロならそれくらい知ってそうなものなんだけど……』と読者も怪訝に思うような工夫であっても、「く、くそう。こんなガキがこれだけの工夫を発見するとは……。負けたぜ」と大げさにおののいてくれるので工夫のしがいもあるというもの。

とまあ、こんな感じでしょうか。
あと、なぜか困っている店の奥さんや娘さんは、店主に比べると偉い美人が多かったりしますが、こりゃまあ、対決型グルメ漫画の多くが少年誌・青年誌なんだから仕方がないですね。
よく知りませんが、あるいは少女漫画やレディコミの場合は、すっごいイケメンでなよっとした面長なやつが、サディスティックな女料理人にいじめられるのを男パティシエが助け恋に落ちるボーイズラブ系グルメ漫画があるのかもしれませんね。

んー、しかしよくよく考えてみると、上でちょろりと書いたお決まりの展開例って、別にグルメ漫画に限ったことではなく、あらゆる少年漫画で見かける流れだったり。

敵が明確な悪意を持って攻撃を加えてきて、それを正攻法で打ち破り、場合によっては悪いほうも素直に負けを認めるさわやかな展開。
俗に「格闘とエロを出しときゃ人気が出る」といわれる漫画界においては、実に訴求力のある優れた展開なのかもしれません。

ただ、三度のメシよりメシが好きな僕としては、もっとこう、対決メインじゃなくて料理自体を楽しめたりする漫画のほうがいいかなあ、なんて思ったり。
後は料理業界とか、食材そのもののドラマとか、そういうのが見れるとうんちくとして楽しかったりします。
まあ、こんなものは個人の好みで選べばいいだけなんすけどね(僕は料理漫画ですと、「酒のほそ道」とか「クッキングパパ」なんかが肌にあったりします。あるいは人情もので「夏子の酒」「築地魚河岸三代目」的なのとか)。


ところで、最近ちょっと気に入ったグルメ漫画を1本。
「めっちゃキャン」という、月刊チャンピオンで連載している漫画ですが、先日コンビニで偶然単行本の2巻を立ち読みして、なんだかいいねえ、こういうの、と思えました。
一見するといわゆるパンツ漫画(よおく見てもパンツ漫画)なのですが、目を細め、邪念を捨て、念仏など唱えながらじっくり見ると、人情系グルメ漫画であることに気がつきます。

簡単な概要を言いますと――築地で仲卸業をしている店の娘(主人公・中学生・女)が魚と料理を通じて困っている人のために手助けをしてあげる、といった話です。
特にいいなあ、と思えたのは、てんぷら屋の相続の話。

伝統あるお店の店主が死に、その娘(たぶん20くらい?)がのれんを継ごうとしているのだが、遺言で後見役をまかされているてんぷら職人(店主の修行時代の兄弟子)の舌を満足させるものが作れず、のれんを継がせてもらえず失意の中にいる時、主人公が手助けを買ってでる。

主人公は兄弟子の店に偵察に出かけ、てんぷら職人の心意気とはなんたるかを理解し、娘にきつい言葉で遠まわしにそのことを教える。
娘は自分がてんぷら職人として何が足りないかに気がつき、兄弟子に、女性である弱さを捨て、熱い油にたじろがず立派なアナゴのてんぷらを作って差し出す。
ところがそれに手をつけない兄弟子、不安そうに「やはり食べてもらえないのか」とたずねる娘にたいし、涙を浮かべこう言った、
「…食わんでもわかるさ。『天翁』の名に恥じない、ウマいアナゴだ!」

こうして兄弟子の後押しを受け、改めて父親が残した店ののれんを継ぐことになった。

非常にストレート、単純明快、ですがそれがいいんですね。
得てして人情モノって、こう、どこか重いテーマだったり、結果誰かが不幸の影を背負ったまま、といったものが多いのですが(それはそれで重い話を楽しめるのですが)、この漫画の良いところは「後読感の良さ」ですね。
すっと入ってすっと出る、後味すっきり、こういったタイプの人情モノもまたいいものです。

ただ最近は掲載誌の性質のためか、どうもグルメ対決モノに傾きつつあるのがちょっと残念です。
できれば後味の良い人情グルメ漫画として、息長く続いてほしいものです。

ところで築地、都知事選がらみでよく知られるようになったみたいですが、ずいぶん前から豊洲に移転することが決まっており、現在の場所はあと数年で市場ではなくなります。
偶然、1年位前に築地に仕事で取材があり、仲卸をやっているとある女性にインタビューしたのですが、やっぱり結構大変みたいですね、移転。
場所的にはそう離れていないのですが、店を移動させるというのは遠い・近いの問題ではないですしね……。

個人的にも、今の築地の、いい意味で「雑」な感じが好きだったりしているので、ちょっと寂しく思えます。
豊洲のほうはフルトンマーケットをモデルに、一般客・観光客を広く受け入れられる体制にするとかしないとか。
んー、なんだかなあ……。

なんでもかんでもマスマーケット狙いにするのって、こう、しっくりこないんですね。
もちろんなんでもかんでも義理だ人情だというわけではないのですが、人の文化も感情も、多様性の中で深さを得るのだと思います。
ビジネスが常に「ビジネス」でない場所って、どこかに残ってほしいですね。

なんか関係ない話になっちゃった……。

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